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大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)2847号 判決

原告 斎藤多慶子

被告 国

訴訟代理人 上杉晴一郎

主文

裁告は原告に対し、金一七九、〇八五円の支払をせよ。

原告その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、大阪地方裁判所裁判官が、昭和二六年五月四日、債権者訴外宮崎定一の申立にもとづいて、債務者である訴外長倉政雄所有の本件建物について強制競売開始決定をなしたこと、その後、右開始決定にもとづいて競売手続が進行し、その競売期日において原告が最高価競買人となるとともに、同二九年六月一二日、同庁裁判官園部秀信が原告に対し本件建物の競落を許可する旨の競落許可決定をなしたこと、そこで原告が、昭和三〇年一月二八目の代金支払期日に競落代金一六万円の支払をなし、同年四月二五日競落による所有権移転登記を経由するとともに、引き続き同裁判所において本件建物の引渡命令を得てその執行に着手しようとしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、しかるところ本件建物が、右強制競売の申立当時からすでに存在せず、したがつて原告がその所有権を取得することができなかつたことは被告においても争わないところである。しかして、原告は、このような事態にたちいたつて原告が損害を被ることとなつたのは右競売事件を担当した裁判官の過失によるものであると主張し、被告はこれを争うので以下この点について検討する。

(一)  本件競売開始決定をなした点についての過失の有無

大阪地方裁判所裁判官が債権者宮崎定一の申立にもとづいて本件建物について強制競売開始決定をなしたこと、当時すでに本件建物が存在していなかつたことは、いずれも前記のとおりであるけれども、〈証拠省略〉によると、債権者である右宮崎定一による本件強制競売の申立は適式になされており、しかも、その添付書類として提出された不動産登記簿謄本および家屋台帳謄本には、右強制競売の申立書に競売に付すべき不動産の表示として掲げられた本件建物とその所在、家屋番号、種類、構造、建坪等を全く同じくする建物の表示とともに、それが債務者である長倉政雄の所有に属する旨の記載がなされていることが認められるのであつて、これらの点からすると、担当裁判官が本件建物について右強制競売開始決定をなしたことについては執行法上なんらの暇疵も存しなかつたことは明らかであるばかりでむく、その際に、本件建物がすでに存在していないことを窺わせるに足りる資料はなんら存しなかつたのであるから、担当裁判官が、本件のごとき事態にたちいたつて原告が損害を被るにいたるであろうことを予見することは全く不可能であつたといわなければならず、したがつて、実体法上も全く過失はなかつたといわなければならない。

(二)  競落許可決定をなしたことについての過失の有無

そこで次に、担当裁判官が本件競落許可決定をなしたことについて過失があつたかどうかの点について考える。本件強制競売開始決定がなされるや、執行裁判所の命令にもとづいて鑑定人江見利之が本件建物の評価額算定のため右建物について調査をなしたうえ、評価命令書記載の本件建物は現存しないからその評価額の算定は不能である旨を記載した評価書(甲第九号証)を提出したこと、そこで執行裁判所より執行吏に対し、本件建物の構造、種類、所在等をさらに調査すべき旨の取調命令が発せられ、かつ、同裁判所所属執行吏村田安太郎が右命令にもとづいて調査のうえ、同年六月一日、本件建物は昭和二五年九月の風水害のため倒壊し、現に存在しない旨を記載した不動産建物調書(甲第一〇号証)を提出したことは、いずれも当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によると、(右不動産建物調書が提出されたのち約二年前にわたつて右競売事件はなんら進行しないままに放置されていたところ、同二八年七月一日にいたつて、債権者宮崎より本件建物の再鑑定の申請がなされ、同月四日付で鑑定人江見和之に対して右建物の評価命令が発せられるとともに、同月一五日付で同鑑定人より本件建物の評価額は合計金一八五、八五〇円である旨を記載した評価書(乙第四号証)が提出されたこと、その後、右建物につき競売期日が開かれて原告がその最高価競買人となり、同二九年六月一〇日競買保証金一六、〇〇〇円を執行吏に預託するとともに、同月一二日前記競落許可決定がなされるにいたつたこと、以上の各事実が認められる。

ところで、〈証拠省略〉によると、本件建物は、昭和二二年頃訴外長倉政雄において建築した建物であるが、同二五年九月のジエーン台風のために屋根の一部が飛び、柱も傾くにいたつたので、所有者長倉においてもこれを建て直すことを決意し、訴外中森金次郎に依頼して同月末頃からこれを取り壊わさせ、その基礎工事も全部取り去つて新たに土台を作らせたこと、その後、同年一一月頃から訴外山根勇吾をして新たな建物の建築にあたらせ、翌二六年四月頃、木造瓦葺二階建居宅一棟(建坪および二階坪とも二五坪九合三勺)が完成したが、爾数回にわたつて増築がなされ、本件競落許可決定のなされた当時においては、建坪三七坪一合四勺、二階坪三五坪九合三勺の木造瓦葺二階建居宅一棟となるにいたつていたこと、しかしながら、長倉が本件建物を取り壊すに際してはなんらの届出もしなかつたところから、同建物は依然残存するものとして家屋台帳上記載され(ただし、当時は未登記)、また、同二六年二月二〇日、債権者宮崎の申請にもとづく仮処分による抵当権設定仮登記の実行のため職権による保存登記がなされるに際しても、当時すでに存在しなくなつていた本件建物があたかも現存するかのように取り扱われて、その表題部に本件建物の表示がなされるにいたつたこと、その後、同二七年八月二六日にいたつて、新築された右二階建建物についても所有権保存登記がなされることとなつたが、その際にも、右建物を現況のまま正確に表示することなく、新建物の階下坪数から本件建物の坪数を控除したものを独立の建物として別紙第二目録記載のごとく表示し、長倉政雄の妻定子名義に保存登記をしたことしかし、本件建物と右新建物とは全く別個の建物であつて、構造上新建物の中から本件建物の坪数に該当する部分を特定することは不可能な状態にあることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない、そうだとすると、鑑定人江見利之作成の前記評価書(甲第九号証)および執行吏村田安太郎作成の不動産建物調書甲第一〇号証)の記載は正確に事実に符合したものであるといわなければならず、したがつて、これが執行裁判所に提出せられて競売記録に編綴せられた以上、担当裁判官としては、本件強制競売の目的物件である本件建物がすでに現存しないことを認識することができ、それ故にそのまま手続を進行させて競売を実施するにおいては競落人に不測の損害を生ぜしめるやも知れないことを予見しえたものと認めざるをえない。もつとも、この点について被告は、右評価書および不動産建物調書は、いずれも債務者の陳述をそのまま記載して報告したものにすぎず、しかも、債務者が虚偽の申立、陳述によつて執行の妨害を企図することは近時しばしばみられる事態であるから、かような書面が提出せられたからといつて右のような損害の発生を予見することはできないと主張する。なるほど、右の書面が主として債務者長倉政雄の陳述をもとにして作成されたものであることはその記載内容自体から明らかであるけれども、右長倉政雄が本件強制競売手続を妨害する意図をもつて故らに虚偽の陳述をなしているものと推測させるような根拠ないし資料が当時存在していたことを認めるに足りる証拠はなく、また、右の陳述が執行債務者の陳述であるとの一事によつて信用するに足りないものと断定すべき十分の理由があつたことを認定させる証拠も存在しないのである。のみならず、右〈証拠省略〉によると、江見鑑定人の評価書は、債務者長倉の陳述のみにも芝づいて作成されたものではなく、同鑑定人が自ら現場に臨んでその状況を見分した上、「所有者及所管区役所等に依り調査した結果を綜合」して作成したものであること、また、右評価書には、たんに本件建物が現存しない旨の記載がなされていたにすぎないのではなく、本件建物の所在場所には、木造瓦葺二階建建物(見取図添付、階下建坪約三一坪、二階坪約二二坪五合と記載)が建築途上、ほとんど屋根瓦を葺き荒壁を塗りかけた程度のまま工事を中止された状態で存在しているが、評価命令書記載の建物(本件建物)に相当する構造坪数の建物は現存しない旨、さらには、右所在場所には昭和二三年七月一日頃本件評価命令書記載の構造、坪数の建物が建築され、所管区役所税務署等にも登録せられたが、その後この建物を二階建に改築することとなり、約一年半ほど前から旧来の建物を原形をとどめないまでに取毀し、現在の建物建築に着工して現在にいたつたものであつて、昭和二六年五月四日当時右評価命令書記載の建物は存在しない旨の詳細かつ具体的な記載がなされていることが明らかであり、また、右〈証拠省略〉によると、前示不動産建物調書には、本件建物は昭和二五年九月の風水害のため倒壊して現存しない旨の記載がなされているのであつて、これらの点からすると、右評価書および不動産建物調書が、執行妨害を企図する債務者の虚偽の陳述を報告したにすぎないものでないことは一読して明白であるというべきであり、したがつて、これが主として債務者長倉の陳述をもととして作成されたものであるからといつて、その故に前記のごとき損害発生の予見可能性を否定することはできないのである。なお、右二通の書面が提出された後約二年を経過した昭和二八年七月一日にいたつて債権社宮崎より本件建物の再鑑定の申請がなされ、同月一五日付で鑑定人江見利之が本件建物の評価額は合計金一八五、八五〇円である旨を記載した評価書(乙第四号証)を提出したことは前記認定のとおりであり、本件競売手続および競落評可決定は主としてこれに依拠してなされたものであると推測されるけれども、右〈証拠省略〉によると、この評価書は、本件建物が現存するものとしてその評価額を記載したのではなく、むしろ、本件建物が現存したいことを記載しな第一回の評価書(甲第九号証)と実質的になんら異るものではないことが認められるのである。すなわち、右評価書には、本件建物は、現在同所同番地上室屋番号同町第四一六番一、木造瓦葺二階建居宅一棟建坪一五坪八合七勺、二階坪三五坪九合三勺の建物の階下に存在するものでこれと「各棟を構成するものではない」旨、さらには、債権者提出の本件建物の図面と目的建物の現況とを綜合すると、目的建物の階下の一部(図面によつて表示)が本件建物に相当すると認められるが、右部分は現在「他の部分と同一時期に完成した程度の状況にあり、昭和二三年七月頃建築の平家建(本件建物)の面影は殆んど残つて居らず、新旧再工作の範囲識別困難の状況にある」旨、したがつてその評価は債権者提出の図面を基礎にして行なつた旨の記載がそれぞれなされているのであつて、この評価書のみを単独に通読したとしても、それが新旧両建物(すなわち本件建物と現存建物)間の同一性を実質的に否定する趣旨のものであることを看取することはさして困難ではないといわざるをえないのである。

以上のとおりであるとすると、本件強制競売手続においては、競売期日および競落期日が指定、公告される段階で、前記のとおり競売の目的物である本件建物がすでに存在しないことを認識することが可能となり、そのまま手続を進行して競売を実施するにおいては競落人に不測の損害を生ぜしめる虞れがあることを予見しうる状況となつたものというべきであり、したがつて、かような状況のもとにおいて右競売事件を担当した裁判官としては、本件建物もしくはそれを取り毀した後に新築した新建物の状況、両建物の同一性等についてさらに調査を遂げ、本件建物がすでに現存しないことを確認の上裁売手続を取消す措置をとり、もつて競落人に右のごとき損害が生ずることを未然に防止すべき職務上の注意義務があつたものといわなければならない。しかるに、担当裁判官がこのような措置をとることなく漫然競売手続を進行させ、その競売期日に最高価競買人となつた原告に対し本件建物の競落を許可する旨の競落許可決定をなしたため、原告が競落代金一六万円その他の費用の支払をしながら本件建物の所有権を取得することのできない状態にたちいたつたことは前記のとおりであるから、右競落許可決定は前示職務上の注意義務に違反してなされたもの、すなわち担当裁判官の過失によるものと認めざるをえない。

なお、被告は、右競落許可決定については、これに対する債務者長倉政雄の即時抗告に対し、抗告裁判所である大阪高等裁判所が抗告棄却の決定をしているのであるがら、なんら違法なものではないと主張し、〈証拠省略〉によると、昭和二九年六月一八日債務者長倉から右競落許可決定に対して即時抗告の申立をし、同年八月一九日大阪高等裁判所においてこれが棄却せられたこと、同月二六日長倉から再抗告の申立をしたが、同年一二月二四日これが最高裁判所において不適法として却下されたことはいずれも明らかである。しかしながら、本件競落許可決定に対する即時抗告が棄却せられたということは、右競落許可決定が執行手続上適法に確定したことを意味するにすぎないのであつて、それ以上に、それが実体法上も適法になされたことを示すものということはできない。すなわち。右競落許可決定をなしたことが違法であるかどうかは、もつぱら実体法上の見地から決すべき事柄であり・しかもこのような見地からするならば、それが法秩序によつて課せられた職務上の注意義務に違反してなされたかどうかによつて判断せらるべきであつて、執行手続上適法になされたかどうかによつてその判断が左右さるべきではないといわなければならない。そうだとすると、本件競落許可決定が法秩序によつて担当裁判官に課せられた前示職務上の注意義務に違反してなされたものであることは前記のとおりであるから、そのこと自体によつて、同裁判官がこのような決定を違一法になしたものと判断すべきものといわなければならないのである。

このようにみてくると、右競落許可決定がなされたことによつて原告の被つた損害は、被告国の公権力の行使に当る公務員である大阪地方裁判所裁判官が、その職務を行うについて過失によつて違法に原告に加えた損害というべきであるから、被告国においてその賠償の責に任ずべきものといわなければならない。

三、そこで次に、原告の被つた右損害の額について検討することとする。

(1)  財産的損害

原告が本件競落代金として金一六万円の支払をなしたことは当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によると、原告が、昭和三〇年一月二九日から同年一二月一七日までの間、本件建物の明渡しを求めるため、数回にわたつて司法書士徳政英に不動産引渡命令申請書・不動産仮処分命令書等の作成方を嘱託し、これを裁判所に提出して引渡命令、仮処分命令を得た上、執行立会人茨卓司、二夕見福次郎に依頼してその執行に着手したこと、右嘱託・依頼の報酬・費用として、同司法書士・執行立会人および大阪地方裁判所執行吏東役場に合計金一九、〇八五円を支払つたことがそれそれ認められるのであつて、しかも、原告が結局本件建物の所有権を取得することができなかつたことは前記のとおりであるから、原告としては、前記裁判官の職務上の過失により、右競落代金と諸費用との合計額金一七九、〇八五円相当の財産上の損害を被つたものといわなければならない。もつとも、この点について被告は、強制競売における競落人が、競落の結果競売の目的物件の所有権を取得することができなかつたとしても、その救済はもつぱら実体法上の売主の担保責任に関する規定によつてなさるべきものであつて、競落人としては、執行機関の処分の違法を主張して国に損害賠償責任を追求することはできないと主張する。なるほど、強制競売そのものは国家機関である執行機関の職務行為として行われるものであるが、その競売の結果債務者と競落人との間に私法上の売買と同様の法律効果が生ずるところから、競落人より債務者(第二次的に債権者)に対し、民法五六八条にもとづいて担保責任を追求することができるものとされていることはいうまでもないところである。しかし、競落人より債務者もしくは債権者に対して右法条にもとづく担保責任を追求することのできるのは、民法五六八条一項にいわゆる前七条(五六一条ないし五六七条)の場合、すなわち競売の目的たる権利の全部または一部が債務者以外の第三者に属していた場合、目的物の数量の不足または一部滅失の場合ならびに目的物が地上権・永小作権等の用益的権利によつて制限されている場合に限られるのであつて、本件のごとく、競売の目的物件が当初から全く存在していなかつたようなときには、競落の結果債務者と競落人との間に生ずる法律関係たる私法上の売買は、いわゆる原始的不能を目的とする売買として無効のものであり、したがつて、民法五六八条にもとづく担保責任を生ずる余地はないといわなければならないのである。ただ、かような場合には、すでに競落代金の支払いをなした競落人としては、契約の解除をするまでもなく直ちに、その配当を受けた債権者に対して不当利得の返還を請求することができることは明らかであろうそう。だとすると、原告の支払つた前記競落代金については、その配当を受けた債権者たる宮崎より返還を受ける法律上の途が残されているというべきであるから(現に原告が債権者宮崎に対して右代金に関して訴を提起していることは当事者間に争いがない)、その限度において原告には損害が発生していないといわざるをえないかのように考えられないではない。けれども、右の場合の国家賠償法にもとづく損害賠償請求権と不当利得の返還請求権とは、それぞれその目的と根拠とを異にする全く別個の権利であつて、その義務者は各々独自の立場から同一の損害ないし損失を填補すべき義務を負担するものというべきであるから、競落人たる原告がすでに債権者宮崎から競落代金の返還を受けたというのであれば格別、そうでない限り、原告が右宮崎に対して不当利得の返還請求権を有しているからといつてその限度で原告に損害が発生していないものとすることはできないのである。

(2)  精神的損害

次に原告は、本件建物の所有権を取得することができなかつたことによつて裁判所に対する信頼を裏切られ、多大の精神的苦痛を受けたと主張して慰籍料の請求をしているので、以下その当否について検討するに、一般に財産権が侵害された場合においてもそれに附随してなんらかの精神的苦痛が生ずるであろうことは推測するに難くないところであり、本件においても、原告が本件建物の所有権を取得できなかつたためになんらかの精神的苦痛を受けたことは証人斎藤広の証言によつてこれを窺うことができるのである。しかしながら、財産権の侵害に附随して生ずるかような精神的苦痛は、通常は財産的損害が賠償せられることによつて同時に慰籍されるものと解すべきであり、このような精神的苦痛についても、慰籍料の請求なすることができるのは、財産的損害の賠償のみによつてはなお慰籍されえないような著しい精神的苦痛を被つた場合に限られるというべきであつて、しかも、被害者にこのような著しい精神的苦痛が認められるのは、慰籍料によつて慰籍さるべき精神的苦痛の程度が社会における合理的な一般人の被るべき精神的苦痛であるところからすれば、侵害された財産または逸失した財産自体が被害者にとつて特別の主観的価値を有する場合であるか、または加害者が悪意をもつて故意に被害者の財産権を侵害するなどその侵害の方法が著しく反社会的である場合のみであると解するのが相当である。しかるに、本件においては、侵害された財産または逸失した財産自体が原告にとつて特別の主観的価値をもつものとは認められず(本件競売事件当時、原告が自ら居住すべき住宅を必要としていたという程度のことではこれを肯定することはできない)、また、侵害の方法が著しく反社会的であるということもできないから(本件損害の発生が、執行裁判所の裁判官の過失にもとづくからといつて、侵害の方法が著しく反社会的であるといえないことはいうまでもない)、原告の被つた前記精神的苦痛は、財産的損害の賠償のみによつてはなお慰籍されえないような著しい精神的苦痛であるとは到底認めることができず、したがつて、前記財産的損害の賠償によつて同時に慰籍されうるものといわなければならない。

それ故、原告の本件慰籍料の請求は失当というべきである。

四、 以上のとおりであるとすると、被告は原告に対し、前記財産的損害金一七九、〇八五円の賠償をなすべき義務があるから、原告の本訴請求はその限度において正当としてこれを認容することとし、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 藤原弘道 福井厚士)

第一、二目録〈省略〉

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